本作はパキスタンの新鋭サーイム・サーディク監督による初の長編映画。伝統的な価値観に縛られる若き夫婦が、自分らしく自由に生きたいという願いとの狭間で揺れ動く姿が、繊細な映像美とともに描かれる。
彼らの物語に加え、父親や隣人女性など、社会の価値観に囚われ生きづらさを抱えるそれぞれの葛藤は、国と時代、性別を超えて観る者の共感を呼ぶ。
パキスタン映画として初出品となったカンヌ国際映画祭で「ある視点」審査員賞とクィア・パルム賞を受賞。世界の映画祭で高く評価され、辛口批評サイト「ロッテン・トマト」でも98%(批評家スコア/7月9日時点)の支持を受ける。さらにフランスやアメリカ、イギリスでも大ヒットを記録するが、本国では保守系団体から反発を受け、上映禁止となる事態に。しかしノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイや俳優リズ・アーメッドらからの支援もあり、上映が実現したことでも注目された。残念ながら、監督の地元であり本作の舞台である、ラホールが属するパンジャーブ州においてのみ、いまだに上映が禁止されている。
大都市ラホール、保守的な中流家庭ラナ家は3世代で暮らす9人家族。次男で失業中のハイダルは、厳格な父から「早く仕事を見つけて男児を」というプレッシャーをかけられていた。妻のムムターズはメイクアップの仕事にやりがいを感じ、家計を支えている。ある日ハイダルは、就職先として紹介されたダンスシアターでトランスジェンダー女性ビバと出会い、パワフルな生き方に惹かれていく。その「恋心」が、穏やかに見えた夫婦とラナ家の日常に波紋を広げてゆく——
パキスタン最大の都市カラチ出身。演劇界でキャリアをスタート。サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」(2013年)や、デヴィッド・マメット、ピーター・シェイファーなどの戯曲、脚本・演出を含むオリジナル作品などに出演。『ジョイランド わたしの願い』で映画デビューを果たし、サンパウロ国際映画祭などにて最優秀男優賞を受賞した。
ラホール出身。ラホール経営科学大学に入学。2012年頃より演劇界でキャリアをスタート。ラホール経営科学大学で出会ったサーイム・サーディク監督の短編「LETTERS OF MIKAEL MUHAMMAD」(2015年)など、数多く短編映画にも出演。『ジョイランド わたしの願い』で長編映画デビュー。脚本家、俳優、プロデューサーとして活躍し、アニメーション、デザイン、サウンドエンジニアスタジオPuffball Studiosの共同オーナーも務める。
1998年10月26日生まれ。ラホール出身。ダンサー、女優。オーディションを受け、主役を勝ち取ったサーイム・サーディク監督の短編映画「DARLING」(2019年)で映画デビュー。同作が第76回ヴェネチア国際映画祭で最優秀短編映画賞を受賞し、一躍有名に。その後、ミュージックビデオや短編映画に出演。その後『ジョイランド わたしの願い』(2022年)で長編デビューを果たした。トランスジェンダーの権利擁護者で、パキスタンのトランスジェンダー・コミュニティから、業界における強力なロールモデルであり先駆者であると称賛されている。2002年よりカナダ・トロントで始まり、今はラホールで開催されている、世界中から集まったパキスタン系の女性のための美の祭典“ミスパキスタンワールド”で、2021年より開催されている“ミストランスパキスタン”を2023年に受賞。
1982年12月22日生まれ。パキスタンの名門インダスバレー芸術建築学校を卒業。「Jawani Phir Nahi Aani」(2015年)で映画デビュー。以来、20年近くパキスタンで数多くのテレビドラマや長編映画に出演している。活動家としても女性の権利と法の啓蒙を提唱し、世界各地のさまざまなプラットフォームで児童虐待反対を訴えていている。スペシャル・オリンピックス・パキスタン、インダス病院ヘルス・ネットワーク、サーチ・フォー・ジャスティスのアンバサダーを務めている。またArt Houseという新しいベンチャー企業のオーナーでもある。障がいのある子どもたち、恵まれない子どもたち、一般の子どもたちを対象に、様々なプログラムや活動を通して創造的な学習と自己認識を促す、子どもたちのための包括的な放課後のスペース。「最も責任感のあるセレブリティ」などの称号を授与され、10年以上にわたってチャリティ活動を続けている。
1980年2月19日生まれ。ラホール出身。モデルとしてキャリアをスタートさせ、その後、俳優業に転向。ロマンチックコメディ「SUNO CHANDA」(2018)などの人気テレビシリーズに出演。18年のキャリアの中で、ユニリーバパキスタン主催の、2002年から毎年開催されている映画、テレビ、ファッション、音楽、映画業の分野で貢献した人を表彰する、パキスタンで最も歴史ある授賞式であるラックス・スタイル賞、PTV賞など数々の賞を受賞している。
1942年生まれ。俳優、脚本家、監督として50年以上のキャリアを持つ。英国で映画とテレビのキャリアを積んだ。ロジャー・ムーア主演作「The Saint」(1962)やBBC制作の「Theatre 625」(1966)など、イギリスの人気テレビシリーズで主要な役を演じる。また「EMERGENCY WARD 10」(1967)や「A Private Enterprise」(1974)「BLOOD OF HUSSAIN」(1980年)などでは主役を演じた。そのほか、長編映画「ZAR GUL」(1997)の脚本・監督など、イギリスとパキスタンの映画界で数多くの著名なプロジェクトに携わってきた。その他の出演作に、チャールズ・ウッド脚本によるBBCのトニー・ガーネット製作「Drums Along the Avon」(1967)、ジョン・フランケンハイマーと組んだ「The Horsemen」(1971)などがある。現在、パキスタンで脚本や演出を手がけるほか、映画や演劇を学ぶ学生を指導し、ワークショップを開催。また、ワシントンを拠点とするシャラクプール社で、芸術文化発展のためのアドバイザーも務めている。
1972年8月28日生まれ。カラチ出身。聖ジョセフ修道院付属高校を卒業し、カラチ大学で臨床心理学を専攻。1989年、Aadhi Duniyaの番組で3月8日に放映された路上劇「Aurat」で初めてテレビに出演。その後、連続ドラマ「Aahat」などに出演し、パキスタンのテレビ業界で一躍スターダムにのし上がった。演劇、テレビ、ラジオ、映画で主演を務め、国内の権威ある賞を何度も受賞している。国営放送パキスタンテレビ放送が毎年開催する、国内最大の授賞式PTVアワードにて、主演女優賞を1991年と2011年に受賞。ユニリーバパキスタン主催の、2002年から毎年開催されている映画、テレビ、ファッション、音楽、映画業の分野で貢献した人を表彰する、パキスタンで最も歴史ある授賞式、ラックス・スタイル賞主演女優賞を4度受賞している。
ラホール経営科学大学で人類学の学士号を、そしてコロンビア大学で映画監督の修士号を取得。短編映画「NICE TALKING TO YOU」(2018)が、2019年に開催されたサウス・バイ・サウスウエスト、パーム・スプリングス・インターナショナル・ショートフェストに正式出品され、BAFTAショートリストの最優秀学生映画賞を受賞。またコロンビア大学映画祭2018で最優秀監督賞を受賞した。またKodak Student Scholarship Gold Awardも受賞。続いて製作された短編映画「DARLING」(2019)はパキスタン映画として初めて第76回ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映され、最優秀短編映画賞のオリゾンティ賞を受賞。トロント国際映画祭2019にも正式出品され、サウス・バイ・サウスウェスト2020では審査員特別賞を受賞した。現在は、『行き止まりの世界に生まれて』(2018)のビン・リューが監督を務める、ベストセラー小説「Hotel on the Corner of Bitter and Sweet」の映画化作品の脚本を執筆中。
2014 「Step motherland」(短編)
2015 「The Letters off Mikael Muhammad」(短編)
2016 「Blackbird」(短編)
2017 「Pasban(The Caretaker)」(短編)
2018 「Nice Talking to You」(短編)
2018 「Nowhere」(短編)
2019 「DARLING」(短編)
2022 『ジョイランド わたしの願い』
ラホール経営科学大学で人類学の学士号を、そしてコロンビア大学で映画監督の修士号を取得。短編映画「NICE TALKING TO YOU」(2018)が、2019年に開催されたサウス・バイ・サウスウエスト、パーム・スプリングス・インターナショナル・ショートフェストに正式出品され、BAFTAショートリストの最優秀学生映画賞を受賞。またコロンビア大学映画祭2018で最優秀監督賞を受賞した。またKodak Student Scholarship Gold Awardも受賞。続いて製作された短編映画「DARLING」(2019)はパキスタン映画として初めて第76回ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映され、最優秀短編映画賞のオリゾンティ賞を受賞。トロント国際映画祭2019にも正式出品され、サウス・バイ・サウスウェスト2020では審査員特別賞を受賞した。現在は、『行き止まりの世界に生まれて』(2018)のビン・リューが監督を務める、ベストセラー小説「Hotel on the Corner of Bitter and Sweet」の映画化作品の脚本を執筆中。
2014 「Step motherland」(短編)
2015 「The Letters off Mikael Muhammad」(短編)
2016 「Blackbird」(短編)
2017 「Pasban(The Caretaker)」(短編)
2018 「Nice Talking to You」(短編)
2018 「Nowhere」(短編)
2019 「DARLING」(短編)
2022 『ジョイランド わたしの願い』
私は長い間、『ジョイランド わたしの願い』の物語とともに生きてきました。振り返ってみると、これはまったくフィクションでありながらも、ある意味自伝的な物語で、まるで贈り物のように、私の脳裏に浮かんだのです。家父長制の強い社会では、男性として十分ではなかった私自身の居場所を探る手段となりました。私が成長するにつれ、『ジョイランド わたしの願い』の登場人物たちは、学校が終わってもずっとそばにいてくれる数少ない10代の友人たちのように、私とともに成長していくのがわかりました。欲望、伝統、男らしさ、家族、自由といった概念に対する私の葛藤は、彼らの葛藤となりました。私が怒りすぎたとき、彼らは共感することを教えてくれました。彼らが幻滅しすぎたとき、私はジョークを飛ばしたり、遊園地の乗り物に乗せてあげたりしたのです。最終的には、彼らのカタルシスは私自身のものとなりました。本作は、家父長制の犠牲の上に生きるすべての女性、男性、トランスジェンダーへオマージュを捧げたものです。それはまた絆を生み出す欲望と、それを不滅にする愛を称えるものでもあります。私の祖国への悲痛なラブレターなのです。
1997年パキスタン生まれ。人権活動家。恐怖政治を敷くタリバンの圧力下、11歳で「女の子にも教育を、学校に通う権利を」とブログで訴え注目される。2012年、15歳のとき、パキスタンでタリバンによる女性教育弾圧に反対したことを理由に、スクールバスで下校途中、頭部を撃たれるが、奇跡的に一命をとりとめる。以後、教育を受ける権利を訴え続け、2013年、世界中の少女たちの教育の支援を目的に「マララ基金」を設立。同年に『わたしはマララ』を出版し、べストセラーに。2014年には世界最年少でノーべル平和賞を授与された。2020年オックスフォード大学を卒業。
1982年イングランド生まれ。パキスタン系イギリス人。俳優、ラッパー。『グアンタナモ、僕達が見た真実』(06)で長編映画デビュー。『ナイトクローラー』(14)で脚光を浴び、HBOのミニシリーズ「ザ・ナイト・オブ・キリング 失われた記憶」(16)ではアジア系男優として初めてエミー賞の主演男優賞(リミテッド・シリーズ/テレビ映画部門)を受賞。『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』(20)でイスラム教徒として史上初のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。祖国アフガニスタンからの脱出を語る青年の姿をとらえたドキュメンタリー『FLEE フリー』(2021)では、製作総指揮を務めた。
1997年パキスタン生まれ。人権活動家。恐怖政治を敷くタリバンの圧力下、11歳で「女の子にも教育を、学校に通う権利を」とブログで訴え注目される。2012年、15歳のとき、パキスタンでタリバンによる女性教育弾圧に反対したことを理由に、スクールバスで下校途中、頭部を撃たれるが、奇跡的に一命をとりとめる。以後、教育を受ける権利を訴え続け、2013年、世界中の少女たちの教育の支援を目的に「マララ基金」を設立。同年に『わたしはマララ』を出版し、べストセラーに。2014年には世界最年少でノーべル平和賞を授与された。2020年オックスフォード大学を卒業。
1982年イングランド生まれ。パキスタン系イギリス人。俳優、ラッパー。『グアンタナモ、僕達が見た真実』(06)で長編映画デビュー。『ナイトクローラー』(14)で脚光を浴び、HBOのミニシリーズ「ザ・ナイト・オブ・キリング 失われた記憶」(16)ではアジア系男優として初めてエミー賞の主演男優賞(リミテッド・シリーズ/テレビ映画部門)を受賞。『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』(20)でイスラム教徒として史上初のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。祖国アフガニスタンからの脱出を語る青年の姿をとらえたドキュメンタリー『FLEE フリー』(2021)では、製作総指揮を務めた。
家父長制の息の根は長く、
長い過渡期を私たちは生きている。
彼女の折られた羽根は
優しく癒されなければならなかった。
古いしきたりなんていらない!絶望に近い悲しみの中で強くそう思った。
たとえ風当たりが強くても、みんな自由に!
細やかで繊細な描写の積み重ねが、家父長制が誰から何を奪い、誰に何を決断させてしまうのかを暴いていく。
家、伝統、世間体、信仰。様々な“檻”の中で、もがきさまよう人々。ジョイランドの本当の在処は、悲しいほどに遠い彼方だ。
奪った翼で羽ばたき、奪った酸素で呼吸する。
無自覚にそれをしている人たちの姿が克明に描かれていた。
病んでいたのは絶対、彼女のほうじゃない。
あの怒りと絶望は、俺たちに向けられたものでもあるはずだ。
打ちのめされる。この作品を語るのにこれ以上相応しい言葉はない。見終わって数日経っても衝撃は続いている。
妻や夫たちのわずかな時間きらめく生が素晴らしいほど、「家」さえなければ誰もが自分であれたのにと悔しい。
とても丁寧に作られた作品で、泣ける。
個人の多様な欲望を、いかに社会が制約しているか、繊細に表現されている。
サーイム・サーディク監督の鮮烈なデビュー作は、パキスタン映画の金字塔となるだろう。
特筆すべきは、女性の欲望が存在しないことを望む社会において、それが思いやりをもって描かれていることだ。遊園地“ジョイランド”のアトラクションに乗って2人の女性が歓喜の声を上げる場面は最も感動的だ。
パキスタン発のミステリアスで切なく優しい映画。
これは自分の内面や感覚が、周囲から期待されていることと一致しないことに気づく人々の物語だ。「こんなのおかしい」という想いを、彼らは日々抑圧しなければならず、生きているのだ。
ラナ家は、漠然とした尊敬と名誉の念に囚われていて、義務と期待の重圧にそれぞれが徐々に苦しんでいく。一人一人に、そして家族としての彼らに何が起こるのか、その過程が深刻に描かれる。終盤に向かうにつれ、映画はどんどん感動的になっていく。
軽妙かつ知的な脚本で、表現がとても豊かだ。繊細なストーリーテリングと鮮やかな映像に感動させられた。
新進気鋭の撮影監督ジョー・サーデの仕事は素晴らしく、殺風景な家庭内のシーンでさえも、きらめく宝石を思わせる色調で彩られる。ビバのアパートのシーンでは、ネオングリーンのLEDライトが魔法のような性質を帯び、その無粋な光線が、星座のように恋人たちの顔を横切っているのに驚かされた!
美しい作品
大好きな作品。誰もが観るべきだ